原発事故避難者の住まいの問題⑤「実現しない国連調査」

 原発事故が起き、避難指示が出なかった地域からもたくさんの人が、被ばくから身を守るために福島県内外へ逃がれました。区域外避難者(自主避難者)です。

 本シリーズでは、住まいの問題をめぐって避難者たちが様々な形で苦境に立たされていることを書いています。ひとまず最終回の今回は、こうした避難者たちへの待遇について国際社会も問題視していることを紹介します。


【これまでの経緯】

 おなじみの時系列表です。国連の動きを書き加えました。

2011年 3月福島第一原発で事故発生。福島市や郡山市など避難指示区域外からの避難者たち(区域外避難者、自主避難者)に対しても、都営住宅や国家公務員宿舎などが無償提供される。
2011年~原発事故の影響が長期化したため、福島県、区域外避難者たちに対する住宅の無償提供を続ける。
2017年 3月末福島県が自主避難者への住宅無償提供を実際に打ち切る。
2017年 4月福島県は国家公務員宿舎で暮らす避難者に対して、公務員と同額の賃料支払いを条件に入居継続を許可する「セーフティネット」事業(上限2年)を始める。
2017年11月国連人権理事会、日本政府に「福島第一原発事故の全ての被災者に国内避難民に関する指導原則を適用すること」と勧告。
2018年 8月ダマリー国連特別報告者が訪日調査を要求。
2019年 3月末県による「セーフティネット事業」が終了。以降、事業が終わった後も退去できない避難者に対して、福島県が賃料の2倍にあたる「損害金」を請求。
2020年 1月ダマリー氏、訪日調査実現を再び要求。(1回目のリマインダー)
2020年 3月福島県、国家公務員宿舎に住む避難者の一部を提訴。
2021年 6月 ダマリー氏、訪日調査実現を再び要求。(2回目のリマインダー)
2021年 8月避難者の人権に関心をもつ約80の団体が外務省にダマリー氏訪日を求める要望書を提出。

 上からいきましょう。
 自主避難者への住宅無償提供が打ち切られた2017年、国連人権理事会は日本政府に勧告を出しました。「国内避難民に関する指導原則を守りなさい」というものです。この「国内避難民に関する指導原則」とは何か。たとえば以下のような内容があります。

《すべての人は、自らの住居または常居住地からの恣意的な強制移動から保護される権利を有する。関係当局は、人々の強制移動を伴うあらゆる決定の前に、強制移動を全面的に回避するため、すべての実行可能な代替案が検討されることを確保する》

 原発事故の避難者は「国内避難民」と言っていい存在だと思います。そうした場合、住宅の提供打ち切りや「あべこべ裁判」「2倍請求」などの政策はこの指導原則に反しているとウネリウネラは考えています。国連も、2017年の時点でこのルールが守られていないのではないかと日本政府に注意したのです。そして勧告の翌年、2018年の8月、国連特別報告者のセシリア・ヒメネス・ダマリー氏が、日本に対して「訪日調査要求」を出しました。日本がきちんとやっているかを実地でチェックしたいということでしょう。

 特別報告者とは、国連人権理事会から任命された専門家で、世界各国の人権の状況を調査する資格を持っています。「国際社会のご意見番」とでも言える存在です。

 ダマリー氏はそのうちの一人で、「国内避難民の人権」問題を担当しています。国連人権高等弁務官事務所のウェブサイトによると、フィリピン出身の法律家で、専門は国際人道法。2016年から特別報告者として活動しています。

ダマリー氏= 国連人権高等弁務官事務所提供

国連の調査要求をスルーし続ける日本政府

 国連から調査などの要求があった場合、日本政府は「すべて受け入れる」とあらかじめ宣言しています。(これを「スタンディング・インビテーション」というそうです。先進国を自称するなら当然のことだと思います。)

ところが、日本政府はダマリー氏の調査要求をずっとスルーしています

 2018年の一回目の調査要求が実現しないので、ダマリー氏は2度にわたって「リマインダー」という文書を出し、早く調査をさせてほしいと求めています。しかし、日本政府はいっこうに、調査を実現させていません。ダマリー氏の特別報告者としての任期は来年までです。このままでは「時間切れ」になってしまう心配まで出てきています。

 国連の窓口役を務める外務省の担当者は、筆者が取材した8月時点でこう言っていました。

「内閣府や復興庁など関係省庁と調整を行っているところだ。(訪日が遅れていることについては)最近であれば新型コロナウイルスの感染拡大問題も影響している」

 しかし、これはおかしいです。新型コロナが問題になった昨年初め以降も、他のテーマについての国連特別報告者は来日しています。オリンピックで海外の人をたくさん集めておいて、なぜダマリー氏はダメなのか、という気にもさせられます。

「スタンディング・インビテーション」を標榜しておいて、3年も待たせるのは長すぎるのではないでしょうか。自国の政策に自信があるのなら、すぐにでもダマリー氏を招き、政策を開陳して議論すべきだとウネリウネラは考えます。

 これについては8月16日、国際環境NGO「グリーンピース・ジャパン」など約80のNGO、市民団体、企業などが連名で、特別報告者の訪日調査受け入れを求める要望書を外務省に提出しました。文面を少しだけ紹介します。

《日本政府としてすみやかにダマリー特別報告者の訪日調査の受け入れの意思表明を行い、同氏の必要な調査に協力していただきたい。(国内避難民である自主的避難者は)安全、健康の確保、教育の保障、家族の離散防止、差別の防止など、さまざまな問題で、人としての尊厳、身体的、精神的、道徳的に健全である権利が尊重されているとは言えません》

8月16日、要望書を提出した市民による記者会見の様子

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