この春福島に越してきてから、震災や原発事故についてどのように学ぼうか、模索しています。その学びのひとつとして私は、県内の歌人、俳人の作品集を読み始めました。震災に関する論考やルポルタージュはたくさんあり、そこから得るものも多いです。

 その一方で、ごく短い言葉で綴られた詩歌にこそ、その土地に住む人びとの想いが煮詰められ、結晶化された状態で存在するのではないか。そう考えています。

 自分が読むだけで終わるのではなく、ちょっとした紹介文のようなものを残しておきたいと思いました。玄人をうならせるような評論ではないですが、一人でも多くの人が作品を知るきっかけになればうれしいです。

 第一回目の今回は、福島市に住む歌人、齋藤芳生(さいとう・よしき)さんを紹介します。

〈摘花作業の始まる朝よ春なればふるさとは桃花水にふくるる〉

 この歌は、2010年刊行の第一歌集『桃花水を待つ』のタイトルにもとられた、齋藤さんの初期代表作の一つです。歌集の巻頭に、このような説明書きがありました。

桃花水……(桃花が開く頃に春雨や氷の解け水で川が増水するからいう)春季の増水。                                    『広辞苑』

 福島市内を流れるいちばん大きな川は、阿武隈川です。県南部に水源をもつこの一級河川は、福島市内で荒川や松川などの支流から水を集め、ゆったりと宮城県へ北上していきます。

 春先に借りた私の家は、荒川沿いから歩いて数分のところでした。はじめて家族で散歩したとき、川の流れのはやさに驚いたのを覚えています。

「ああ、雪解川だね」

などと家族で話しました。川沿いの果樹園で、桃の木が丸っこい花をつけているのが目に鮮やかでした。

 そんな記憶もあって、私はすぐ、齋藤さんの歌のファンになりました。故郷・福島の自然に身を浸らせながら歌をつくる人なのだろうと、イメージを膨らませました。

 齋藤さんのプロフィールを簡単に紹介します。

  1977年 福島市生まれ
  1999年 短歌結社「歌林の会」に入会
  2007年 角川短歌賞を受賞
  2010年 第一歌集『桃花水を待つ』刊行
  2014年 第二歌集『湖水の南』刊行
  2019年 第三歌集『花の渦』刊行

 短歌賞をとった2007年夏から3年間、齋藤さんはアブダビで日本語教師として働いていました。帰国後、東日本大震災が起こります。その直後からしばらく東京で会社員生活を送り、現在は福島市内で学習塾の講師をしながら歌作しているそうです。

 『桃花水を待つ』は、はるか中東の異国情緒と、そこから見返したときの故郷福島のみずみずしい景が印象に残る歌集です。『湖水の南』は、東京に居ながら被災した故郷を思う気持ちがストレートに表現されています。読んでいると切なくなります。『花の渦』は、もう一度故郷に戻り、地に足をつけた生活を送っている充実感が伝わってきます。塾に通う子どもたちの歌には心が弾みました。

 つまらない感想はここまでにして、気に入った歌を数首ずつ紹介させてもらってこの稿を終えます。(もしかしたら、続きを書くかもしれません。)

   雨降り花を摘んでしまったために降る雨 君の眼を潤ませながら

   外気温五十三度の昼下がり凪ぐ海は陽をなだめていたり

   忘れてもいいのだけれど 春の田に片足を入れし日の温とさは

   アブダビは宵っ張りの国耳たぶに満月のような真珠ひからせ

   夕暮れの砂漠のように寡黙な子寡黙なままに手を握り来る

『桃花水を待つ』(角川書店)

   大鳥よその美しき帆翔を見上げずに人は汚泥を運ぶ

   シャベルも軍手もマスクも持たずふるさとに背を向けて働く私は

   連翹の枝を挿すなり父祖の土地の放射線量を測るかわりに

   福島に帰ろう、と思う 夕に差す目薬の青き一滴沁みて

   放射線量日々生真面目に計測す さすけねえ、とはかなしきことば

『湖水の南』(本阿弥書店)

  

   林檎の花透けるひかりにすはだかのこころさらしてみちのくは泣く

   逃げるとは生きること温き泥の中おたまじゃくしはわらわら逃げる

   余花に降る雨あたたかくやわらかくふるさと遠くひとを眠らす

   授業へ向かうわたしと歌をよむわたし青葉の交差点に見交わす

   雨をよく弾く傘なり一年生今日は一度も泣かずに帰る

『花の渦』(現代短歌社)

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