【原発事故汚染水海洋放出】みなさんの声⑪:「海はだれのものか……」

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 東京電力福島第一原発事故で発生している汚染水の海洋放出について、読者の皆さんからいただいたご意見を紹介していきます。ぜひお読みください! ※トップ画像は宮城の海で働く漁師たち


【小林茂さんのご意見】

海はだれのものか……
 海洋放出こそが一番の安上がり——としている東電と、それを追認(というよりは一体化して推進)している国政府の虚妄は、原発が安全で安上がりのエネルギーとしてきた原子力政策とも通底しているように思います。
 考え続けている2つの事柄があります。

 一点目は、海はだれのものか?ということ。
 東電福島原発前面海域の漁業権に関連して、「?」と思った記述(言説)がありました。東電が汚染水放出をするエリアは東電の所有海域である——といった内容で、多分、facebookのどこかで見かけたように思います(記録魔なのに、メモするのを失念してしまいました)。
 これに関連していうと、当時は福島原発と呼ばれていた第一原発建設の際の漁業補償(漁業権放棄と、原発関連施設の建設に伴う漁業上の損失補填として)は、入会漁協も含め9漁協(10漁協とする記述も)に対し、計約1億円が支払われ、第二原発については7漁協に約36億円が支払われています。
 漁業権を金銭換算したことで、土地同様、海面にも所有権があるかのような、従って、関係漁協が操業海域を東電に売り渡し、東電がその海域の所有権を得たかのような、錯覚が生じたのかもしれません。

 調べると、こんなことも書いてありました。
 〈漁業権とは特定の公共用水面(漁場区域)において「漁業を営む権利」なのであり、「漁場を支配したり占有したりする権利」ではない〉
 東電が汚染水放出を企図している海域は東電の持ち物でもなんでもなく、言葉としては「共同漁業権非設定区域」がふさわしいようです。東電が見切り発車的に施工し完成させた放出用の海底トンネルに関しても、その実施に際しての手続きに瑕疵はなかったのか? 疑問を抱いています。
 
 二点目は、前項と関連します。先日(7月23日)に行われた原子力市民委員会公開フォーラム「いま改めて、処理水汚水の海洋放出の問題を考える」において、この件についてチャット欄のQ&Aで尋ねてみました。以下、私の質問とそれへの回答の書き起こし記録を引用します。
         ◆
Q 海底トンネル工事(掘削)に当たって、何らかの法制度に規定されている許認可が必要になったのではないでしょうか。この点に関して、東電は然るべき手続きを取っていたかどうか、情報があったらご教示ください
A 認可により工事をしていた。共同漁業権を放棄(原発事故以前から)していた海域の中なので、漁業側の許諾は不要というのが東電のスタンスで、規制庁と県庁と地元自治体(双葉・大熊)において工事の許可が検討されて最終的に許可が出された。
Q (この答えを受けて)海底トンネル工事に関し、福島県、地元自治体等の了解・許可を得たので手続き上瑕疵がなかったとする東電の認識について。見切り発車的な手法および汚染水放出という問題の重大さから言って、秘密裏にことを進めた印象を拭えず、今のような姿勢の繰り返しが招く根強い不信を払拭するためにも、時間をかけた熟議が必要だったのではないでしょうか。
A いわきの会議の場で2021年12月にこの説明が東電からあった時に、船舶を航行させている地元の漁業者に(対して)、事後報告と進捗報告だけなのか、ということを問いただしました。また、共同漁業権を放棄しているとはいえ、それは原発の稼働のための放棄であり、事故後の廃炉の際にそこで何をやっても良いということにはならないのではないかという指摘もしましたが、返答はありませんでした。また、この海底トンネルは撤去できないので処理水の後はどうなるのか(転用するのか、それならば地元側にその際にも協議に付す必要があるのではないか)という問題もあります。 
(引用ここまで)

 前段で、「共同漁業権非設定区域」という概念に触れましたが、海底トンネルが敷設された場所は、東電の所有物ではない公有水面に相当するのではないか(この点については十分精査していないので詰めが必要ですが)。とすれば、規制庁・県庁・地元自治体(双葉・大熊)の認可を得て着工——との判断も、他の省庁と連携し、法制度を横断的に検討する必要があったのではないでしょうか?認可の相談を受けた福島県庁がどのような対応・指導をしたのかも気になるところです。

 なお、話はそれますが、このQ&Aのチャットの中で、鈴木譲さん(東大名誉教授)が発した質問も極めて示唆的内容なので、書き起こし全文を以下に引用紹介します。
         ◆
Q鈴木譲 各発表者の発言をお聞かせいただきました。汚染水放出の問題点、不当性をいろいろ指摘するのは大変重要なことですが、それをもとにどのように闘うのか、その戦略がより重要なことだと思います。
 政府や東電との交渉を繰り返してものらりくらりとかわされるのみで有効とは思えません。その中で、林さんの円卓会議には希望が湧きます。
 水産資源保護法第4条「水産動物に有害な物の遺棄又は漏せつその他水産動植物に有害な水質の汚濁に関する制限又は禁止」規定が有効な戦いの手段としてまだ登場していないと思います。
 原発事故で有害物質(放射性物質の除外規定はない)が流されて水産業に深刻な被害を与えたのだから、この法律に違反は明らかです。福島県知事は取り締まれ、と漁業者が訴えれば大きな社会問題となると思うのですが、なんだかんだと拒絶するかもしれませんが、それはそれで大きな問題となります。
 知事が一緒に闘う仲間になるか、闘うべき相手になるかはわかりませんが(予想はつきますが)、そこから戦いが生まれると思います。
(引用ここまで)

【ウネリウネラから一言】

 「海はだれのものか?」ということについて、小林茂さんは福島第一原発の建設当時のことから掘り起こして書いてくれました。

「東電が汚染水放出を企図している海域は東電の持ち物でもなんでもなく、言葉としては『共同漁業権非設定区域』がふさわしい」というご指摘が印象的でした。

 東電と漁業者たちが話し合っていたのは「漁業権」についてであり、「海そのもの」や「海に関するあらゆる物事」ではない訳ですよね。「海に関するあらゆる物事」については、漁業者だけでなく、あらゆる人々(本来はあらゆる生物)に発言権があると思います。

 政府・東電は福島県漁連に対し、「(漁業関係者を含む)関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と約束しています。

 この約束にある「関係者」という言葉の中には、「漁業関係者」だけでなく、「あらゆる人々」を含まなければいけないと思います。少なくとも反対意見に本気で耳を傾け、代替案を練る必要があるでしょう。

 小林茂さん、ご意見ありがとうございました!


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