新潟市水道局に勤めていた男性(当時38)が2007年5月、《いじめが続く以上生きていけない》と書きのこし、命を絶ちました。職場の責任を追及する裁判は3月3日に証人尋問を終え、結審(審理の終了)が近づいています。
この事件でウネリウネラが特に問題視しているのは、新潟市水道局の対応です。男性の死は公務災害(=仕事が理由での死亡)が認められています。公的な機関によって、「(上司だった)A係長の言動は著しく理不尽な『ひどいいじめ』である」と認定されたのです。しかし水道局はその後、局内の「内部調査」によって「いじめはなかった」と断定し、遺族への損害賠償を拒みました。この対応は不誠実だと言わざるを得ません。
内部調査が始まるまでに水道局と遺族の間でどんなやりとりがあったのか、当時の資料を基に考えます。
【事件の経緯】
まずは時系列をふり返ります。赤字の部分を新たに加えています。
2007年 5月 | 男性が自死 |
2011年 11月 | 男性の自死が公務災害と認められる |
2012年 3月 | 男性の遺族が水道局に損害賠償を請求 水道局、遺族に対して公務災害の認定に使われた資料の提出を要求 |
5月 | 資料提出について、水道局と遺族が協議 |
8月 | 水道局、資料請求の理由を「円満に解決するため」と説明 |
9月 | 水道局の説明を受けて遺族が資料を提出 |
水道局、いじめについての内部調査を実施 | |
11月 | 水道局、遺族側に「賠償には応じられない」と回答 |
2015年 9月 | 遺族が損害賠償を求めて新潟市(水道局)を提訴 |
2011年11月、地方公務員災害補償基金の新潟市支部審査会(以下、基金審査会)が、男性の自死を「公務災害」と認めました。公務災害認定を受け、遺族側は2012年3月、水道局に損害賠償を求めます。それに対して水道局は、遺族の手元にある資料を提出するように求めてきました。
「手元にある資料」とは、基金審査会が認定にあたって遺族に渡した資料のことです。
遺族側は当初、この資料の提出をためらいました。資料には同僚職員の陳述書などが含まれており、誰が「いじめ・ハラスメントはあった」と証言したのかを水道局側に知られてしまうからです。水道局が証言した職員に嫌がらせをしたり、圧力を加えて証言を翻させたりするのではないかと心配したのです。
そこで同じ2012年の5月、遺族と水道局との間で話し合いが行われました。遺族側の出席者は妻Mさんと代理人の弁護士。水道局側は、総務課の職員2人でした。
Mさんはこの日、話し合いの最中に、その内容を手帳にメモしていました。一部紹介します。
上から〈和解〉〈議会〉〈再発防止〉〈処分について 当該係長〉とあります。これはどういう意味でしょうか。Mさんは筆者にこう話しています。
これらはすべて、水道局の方が話した内容です。同僚の陳述書を含む認定資料がなぜ必要なのか、職員の方が説明しました。協議の最中だったため、わたしはキーワードだけ走り書きしました。
妻Mさんの話
〈和解〉と書いたのは、水道局職員が「ご遺族と和解する方向で考えています」と話したから。〈議会〉は、「損害賠償を行って和解するためには市議会への報告が必要で、議会に報告するためには詳しい認定資料がほしい」という話。〈再発防止〉は、「再発防止策を講じるためにも資料に基づく調査が必要」。
Mさんによると、水道局の職員は認定資料が必要な理由をこうやって説明していったと言います。そして〈処分について 当該係長〉の部分です。
職員の方は「関係者の処分を行います」とはっきり言いました。そのあと、「処分された職員が不服申し立てを行う可能性があります。その時にきちんと処分理由を説明するためには、詳しい資料が必要です。特に反論が予想されるのは当該係長です」という話でした。このため、わたしは〈処分について 当該係長〉と書きました。
妻Mさんの話
メモ帳の下のほうには、こんな記載もありました。
Mさんの説明を聞きましょう。
協議中の走り書きなのでごく簡単な文章ですが、職員の方が話したことを書いたものです。職員の方は「不服申し立てに備えて詳しく調査し、その後、ご遺族に謝罪する」と明言していました。「いじめ・パワハラがあったかどうかを疑っている」などということは、少しも言ってませんでした。
妻Mさんの話
この「5月1日協議」から3か月後の2012年8月、水道局は書面でも、内部調査の趣旨を遺族側に伝えています。こういう文面です。
〈損害賠償請求について、円満に話し合いで解決したく、資料提供および当方内部調査への使用に関わる承諾をお願いいたします。損害賠償請求を検討するうえで、必要不可欠と考えております。趣旨をお汲み取りいただき、資料提供にご配慮くださいますようお願いいたします。〉
先ほど紹介した妻Mさんの手書きメモは、水道局のこの文面と内容的に合致します。この時点では、水道局も「いじめ・パワハラがあった」ことを前提にしていることが分かります。
水道局総務課の担当者は筆者の取材に対してこう話しています。
5月の協議に関するご遺族の説明には異論ありません。水道局としては当時、公務災害が認定された以上、(事案を調べた基金審査会で)相当な事実の積み上げが行われたものと考えておりました。しかし、ご遺族から提供していただいた資料を基に当方で事実確認調査を行ったところ、いじめ・パワハラはなかったという結論に至ったものです。
新潟市水道局総務課の話
すでに何度も書いていますが、内部調査で初めて「いじめ・ハラスメントはなかったのかもしれない」という疑念が生じたら、その疑念も含めて遺族に伝え、誠実な話し合いを行った上で、第三者による再調査などを行うべきでした。そうした真っ当なプロセスを一切踏まず、身内による調査だけで遺族への謝罪・賠償を拒むというのは、あまりにも乱暴だと言わざるを得ません。
このようなやり方は問題にされてこなかったのでしょうか。次回に続きます。
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