【汚染水海洋放出】東電の市民への対応

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 東京電力福島第一原発にたまる汚染水について、海洋放出に反対する市民たちが6月12日、福島市内の会議室で東京電力と話し合いを行いました。

 2時間以上にわたる話し合いを要約すると、

市民側は「すべての関係者の理解を得るまで事前工事など海洋放出の準備をストップすべきだ」とうったえた。それに対して東電の担当者は「『関係者の理解なしには処分を行わない』という約束を守る方針に変わりはない」と答えるにとどめた。

という感じになると思いますが、一問一答を追っかけていくと東電の不誠実さがはっきり見えてきます。長いですが、お付き合いください。


前段

 東電に交渉を呼びかけたのは以下の10団体です。

脱原発福島県民会議、双葉地方原発反対同盟、福島原発事故被害から健康と暮らしを守る会、フクシマ原発労働者相談センター、原水爆禁止日本国民会議、原子力資料情報室、全国被爆2世団体連絡協議会、原発はごめんだ!ヒロシマ市民の会、チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西、ヒバク反対キャンペーン

 10団体は定期的に東電や政府と話し合いを重ねています。この日の話し合いに向けては大阪府立大の長沢啓行名誉教授(工学)が中心となり、東電に対して事前にいくつかの質問を送っていました。大きな質問の一つが、福島県漁連との「約束問題」でした。

 東電は2015年8月、福島県漁連に対して「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と約束しました。このことについて10団体は以下の質問を出していました。

10団体から東電への質問(「約束問題」について)
①「重い約束」であるこの文書確約を必ず守ることを改めて明言してください。
②「トリチウム汚染水」(ALPS処理水)の海洋放出によって影響を受ける人々は、福島県の漁業者だけではありません。農林業、観光業はじめ、すべての福島県民が関係者です。そして周辺県の漁業者および全国漁連も反対を表明しています。さらには、太平洋島嶼国等、太平洋を共有するすべての人々が「関係者」です。いかがですか。
③「関係者の理解」なしに、放出に向けた海底トンネルの建設工事やさまざまな準備作業を強行に進めていること自体が「約束違反」です。即刻、これらの作業を中止し、海洋放出の方針を撤回すべきです。いかがですか。

東電と市民団体、実際のやりとり

 市民側の参加は45人。東電側は4人が着席して説明しました。代表者は福島復興本社復興推進室の副室長でした。事前質問に回答する前、東電側はこんなことを言ってきました。

東電:それでは回答させていただきますが、マスコミの方は…


司会:マスコミの方はここまででお願いしたいと言っておられますけど……

参加者:ええー

参加者:なんでですか? みんな知りたがっていますよ!

参加者たちの反対により、この件はうやむやになり、ようやく東電の担当者の回答がはじまりました。

東電:①に対しての回答です。当社としては2015年に福島県漁連に対し、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と回答しており、この方針について変わりはありません。福島県漁連への回答内容を踏まえ、実施主体となる当社としましてもALPS処理水の処分における安全な設備の設置や、運用などの計画に基づく安全確保や、科学的根拠に基づく国内外への情報発信、海域モニタリングの強化、風評対策の徹底など、政府の基本方針を踏まえた取り組みをしっかりと進めるとともに、引き続き、漁業者をはじめとする皆さまのご懸念や、ご関心に真摯に向き合い、ALPS処理水の処分も含めた福島第一原子力発電所の廃炉作業に関する当社の考えや実施計画について丁寧に説明させていただく取り組みを重ねて参ります。

 もう一つの質問(※市民側の質問②)に対する回答です。「関係者」については、人によってさまざまなお立場、背景、影響の度合いがあり、考え方、捉え方もそれぞれ異なることから、明確に線引きすることはなかなか難しいと考えております。当社は事故の責任を全うする実施主体として、漁業関係者など地元の皆さまのさまざまなご意見をお伺いしながら、福島第一原子力発電所の廃炉・処理水等対策の各取り組みについて、当社の考えや対応をご説明させていただき、ご理解を深めていただくことが重要と考えております。

 二つ目の質問の項目です。サブドレン及び地下水ドレン運用方針・・・

ここで司会がいったん止めました。先ほど書いた質問の③への回答がぬけていたからです。

司会:あの、③の質問がぬけたと思うんですけど。

東電:③…。

司会:理解なしに処分しないと言っておきながら、海底トンネルの工事などを進めている。それ自体が約束違反ではないのですか?という質問ですが。

東電:……。

参加者:③ですよ。

司会:もし回答を準備されていないのなら今お答えいただいても結構ですよ。これはみんな、大事な問題だと思っていますので。

東電:……(しばらく時間がたつ)

司会:今は答えられないですか?

東電:(回答者が交代して)では、私のほうから答えさせていただきます。当社としましては、2015年に福島県漁連に対しまして「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と回答しておりまして、この方針について変わりはございません。福島県漁連への回答内容などを踏まえまして、実施主体となる当社としましてもALPS処理水の処分における安全な設備の設置や、運用などの計画に基づく安全確保や、科学的根拠に基づく国内外への情報発信、海域モニタリングの強化、風評対策の徹底など、政府の基本方針を踏まえた取り組みをしっかりと進めるとともに……

司会:すみません。今のは、先ほどの方が(①への回答として)おっしゃったことですよね。

東電同じでございます

司会:同じとおっしゃる?

東電:はい。

司会:同じだったら同じで、もういいですよ。

東電:はい。(と言いつつ、そのまま①と同じ回答を続ける)引き続き、漁業者をはじめとする皆さまのご懸念や、ご関心に真摯に向き合い、ALPS処理水の処分も含めた福島第一原子力発電所の廃炉作業に関する当社の考えや実施計画について丁寧に説明させていただく取り組みを重ねて参ります。以上でございます。

司会:全然答えになってないですね。

沈黙を続ける東電

 司会の方に代わって大阪府立大の長沢氏が質問しました。

長沢氏:③について、マスコミの方がいるうちに改めて聞きます。今、海洋放出の準備作業を強行に進めていますけれども、これ自体が約束違反ではありませんか、という指摘ですけど。約束違反にはならないという見解ですか? ご説明いただきたいと思います。なぜそう言えるんですか?

東電:……(沈黙)

長沢氏:理解を得られていないのに準備工事をどんどん進めている。これは約束違反ではないのですか? 答えてください。明確に。

東電:……(沈黙)

司会:なぜこの質問だけ回答がないんですか?

東電:……(沈黙)

長沢氏:沈黙されるのであれば、私が先ほど言った通りだということでよろしいですか? 理解なしに準備作業を進めるのは約束違反です。それをお認めになったということでよろしいですか? 沈黙するなら認めたことになりますよ。

東電:……(沈黙)

長沢氏:違いますと言わないなら、約束違反だということを認めたことになりますよ。

東電:約束違反だとは考えておりません。

長沢氏:約束違反ではないという根拠はなんですか? ふつうはすべての工事を凍結して、理解が得られるまで工事は進めませんと言うのが当り前ですよ。今は真水を流して試験運転までしているじゃないですか。どういう根拠で約束違反ではないと言えるんですか?

東電:私どもとしましては、2021年4月に政府からいただいた基本方針を重く受け止めております。2年後の春ごろをめどに放出できるよう準備を整えるということで、規制委員会の方に設備を申請し、認可をいただきました。そして福島県様、大熊町様、双葉町様の事前了解をいただいて、昨年8月のことでございますが、そこから工事を着手いたしました。そうしないとですね。2年後の春という段階で放出を開始することができませんので。引き続き理解を得られるように説明を進めて参りたいと思っております。

長沢氏:2年後の春頃に、というのは政府が勝手に決めたことです。漁民も含め市民は納得しておりません。そういう一方的な政策決定に基づいてやるっていうのはまさに、関係者の理解を得ていない段階で約束違反をしてやる、ということなんじゃないですか?

参加者:約束違反について聞いています。あなた方の都合やら計画やらを聞いていません。

東電:今いただきました様々な意見に関しまして、弊社に戻りまして、検討したいと思います。

長沢氏:まだ漁民や福島県民の理解は得られていないんでしょ?規制庁や自治体のトップは「しゃあないな」というようなことを言っているかもしれないけど、肝心かなめの福島県漁連は「断固反対」と云うておられましたよね。

東電:今現在、処理水の取り扱いに関して、弊社のほうで、地元をはじめとした関係者の方々への説明がされている中で、それぞれのお立場からの思い、切実な思いをですね、お伺いをしているところです。引き続き、皆さまの声であったり思いに、真摯に向き合って、当社の対応であったり、考えにつきまして、丁寧な説明を続けていくとともに、ご疑問、ご懸念をひとつひとつ解消して、多くの方にご理解を深めていただくように取り組みを進めることが重要だと考えております。

長沢氏:説明する、理解を求めると言うのであれば、現状の工事をストップすべきです。そういうことをやらない限り、説明を聞くだけで理解を得なくても進めるんだという風に思いますよ。社会的な常識です。(東電の代表者のほうを向いて、)あなたが答えてください。

東電の代表者:しっかり皆さんのご懸念に対して真摯に向き合って、ご理解を得られるようにご説明していきたいと思っております。

 その後も似たようなやりとりが続きました。

長沢氏:あなた個人の見解でもいいです。今やっている真水の放出試験を止めます、止めさせます。こういうことを聞かない限り、あなた方の回答は真摯なものとは受け止められない。

参加者:ストップ!

参加者:真摯な行動をお願いします!

東電の代表者:先ほどから何度も申し上げております通り、「理解なしにはいかなる処分も行わない」ということはお約束をしております。この方針に変わりはございません。本日はここまでの回答しか持ち合わせておりません。今日いただいた話については、しっかりと持ち帰らさせていただいて、ご回答をしたいと思っております。

同じ回答をくり返す東電

 東電の対応が不誠実だったのは上記のやりとりだけではありません。

「約束問題」に続き、市民側はこれまでの地下水の取り扱いについて細かく事前質問を出していました。それに対して東電がこの日答えた内容を書いておきます。

(以下、長く書きますが、細かい内容ですが、確認してほしいのは、市民側がさまざまな角度で質問しているのに、東電が同じ言葉をくり返しているだけだということです)

市民側の質問(1)
実施計画上はすべての地下水ドレン汲み上げ水を集水タンクへ移送することになっていた。集水タンクで運用基準を上回るトリチウム濃度となることは予測されていたのでは?
東電の回答
地下水ドレンからタービン建屋への移送は、地下水が海側遮水壁を越えて直接海洋へ流出することを防止するため、海側遮水壁以下の水位を保持するために地下水ドレンの汲み上げを実施し、タービン建屋へ移送した緊急的な対応のものであり、一時貯水タンクおよび集水タンクにおいて、トリチウム濃度が運用目標以上を超えたため、移送したものではありません。
市民側の質問(2)
2015年当時の護岸付近の地下水観測孔およびウェルポイント/改修ウェルでの地下水トリチウム濃度は場所によっては10万ベクレル/L前後と極めて高く、海側遮水壁閉合に伴って汲み上げた地下水ドレン汲み上げ水も当然、トリチウム濃度が高いことは十分予想されたことです。実際に2015年8月時点でも、地下水ドレン中継タンクAおよびBでは3000ベクレル/L前後と高かったのです。これらを集水タンクへ移送すると、集水タンク内の水の「トリチウム濃度が1500ベクレル/Lを超えてタンク等へ貯留する」事態に陥ったと推定されます。この事実に相違ありませんか。
東電の回答
地下水ドレンからタービン建屋への移送は、地下水が海側遮水壁を越えて直接海洋へ流出することを防止するため、海側遮水壁以下の水位を保持するために地下水ドレンの汲み上げを実施し、タービン建屋へ移送した緊急的な対応のものであり、一時貯水タンクおよび集水タンクにおいて、トリチウム濃度が運用目標以上を超えたため、移送したものではありません。
市民側の質問(3)
4月2日の東電回答では、実施計画上はすべての地下水ドレン汲み上げ水を集水タンクへ移送することになっていたことには言及されていません。そして、実施計画に記載されていない「タービン建屋への移送」を行ったことについての説明もなく、「タービン建屋への移送」しか選択肢がなかったかのように回答されています。どうしてでしょうか。
東電の回答
地下水ドレンからタービン建屋への移送は、地下水が海側遮水壁を越えて直接海洋へ流出することを防止するため、海側遮水壁以下の水位を保持するために地下水ドレンの汲み上げを実施し、タービン建屋へ移送した緊急的な対応のものであり、一時貯水タンクおよび集水タンクにおいて、トリチウム濃度が運用目標以上を超えたため、移送したものではありません。
市民側の質問(4)
海側遮水壁閉合後に「タービン建屋への移送」が不可避だったのは地下水ドレン汲み上げ水のトリチウム濃度が、特に中継タンクA・Bで、非常に高かったからであり、そうなることは先ほど確認したとおり、事前に十分わかっていたことです。したがって、「緊急対応の一環」であり、やむをえなかったという規制委回答(考え方)の➄や規制庁回答(2023.5.10)の⑩の主張は事実を歪曲して「貴社による実施計画違反や原子力規制委員会・規制庁の瑕疵」を隠蔽するために捏造された「事実無根のシナリオ」だと私たちは考えますが、いかがですか?
東電の回答
地下水ドレンからタービン建屋への移送は、地下水が海側遮水壁を越えて直接海洋へ流出することを防止するため、海側遮水壁以下の水位を保持するために地下水ドレンの汲み上げを実施し、タービン建屋へ移送した緊急的な対応のものであり、一時貯水タンクおよび集水タンクにおいて、トリチウム濃度が運用目標以上を超えたため、移送したものではありません。
市民側の質問(5)
規制庁回答(2023.5.10)の⑩は、「⑨その後、東京電力から詳細を聴取したことを踏まえ」たものであり、貴社から「緊急対応の一環」だったという弁明を受けて発出されたものだと私たちは推測しますが、いかがですか?
東電の回答
地下水ドレンからタービン建屋への移送は、地下水が海側遮水壁を越えて直接海洋へ流出することを防止するため、海側遮水壁以下の水位を保持するために地下水ドレンの汲み上げを実施し、タービン建屋へ移送した緊急的な対応のものであり、一時貯水タンクおよび集水タンクにおいて、トリチウム濃度が運用目標以上を超えたため、移送したものではありません。
市民側の質問(6)
東電の回答(2023.4.2)の②で地下水ドレン汲み上げ水の移送先を「タービン建屋」に限定し、「集水タンクへの移送」に全く触れなかったのは、実施計画の記載内容を勝手に改ざんするに等しく、「実施計画に違反する行為」だと私たちは考えますが、いかがですか?
東電の回答
地下水ドレンからタービン建屋への移送は、地下水が海側遮水壁を越えて直接海洋へ流出することを防止するため、海側遮水壁以下の水位を保持するために地下水ドレンの汲み上げを実施し、タービン建屋へ移送した緊急的な対応のものであり、一時貯水タンクおよび集水タンクにおいて、トリチウム濃度が運用目標以上を超えたため、移送したものではありません。
市民側の質問(7)
地下水ドレン汲み上げ水のタービン建屋への移送はウェルタンクを介してウェルポイント/改修ウェル汲み上げ水とともに2号機タービン建屋へ移送されていました。この移送ラインに係る設備等も実施計画に記載されていません。貴社は、地下水ドレン汲み上げ水をタービン建屋へ移送する事態が避けられないことを十分認識しつつ、それを実施計画に記載しなかった本当の理由は、このウェルタンクを介した移送ラインそのものが実施計画への記載漏れになっていたからではないかと私たちは考えますが、いかがですか。
東電の回答
地下水ドレンからタービン建屋への移送は、地下水が海側遮水壁を越えて直接海洋へ流出することを防止するため、海側遮水壁以下の水位を保持するために地下水ドレンの汲み上げを実施し、タービン建屋へ移送した緊急的な対応のものであり、一時貯水タンクおよび集水タンクにおいて、トリチウム濃度が運用目標以上を超えたため、移送したものではありません。

 東電の担当者は無表情で、全く同じ文章を延々7回も読み上げました。実はこの回答の文章は前回の話し合い(4月2日)の時の回答と同じです。


【ウネリウネラから一言】

 皆さん、いかがだったでしょうか? 

筆者(ウネリ:牧内昇平)は東電の対応は、端的に言って、相手を馬鹿にした対応だと思います。海洋放出に怒っている人たちの気持ちを真剣に受け止めていません。深刻な事故を起こした加害企業であるという自覚(当事者意識)があれば、こういう対応にはならないと思います。

いくら「政府が責任をもって決定。IAEAがチェック」などと言っても、最終的に現場で施設を動かし、汚染水を海に捨てるのは東電です。その東電の当事者意識が見えない、市民の気持ちを真剣に受け止める姿勢を感じることができないというのは、深刻な問題です。

皆さまのご意見を募集します

 海洋放出問題について、皆さまのご意見を募集します。長いものも短いものも、海洋放出を支持する意見も反対する意見もすべて歓迎です。お待ちしております。

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